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瀬戸内海経済レポート

画竜点睛を欠いた原稿―若手記者の試行錯誤

瀬戸内海経済レポート いいモノはいい!広報担当 安江 義男

瀬戸内海経済レポートが記事の質を高めるために表彰制度で取り組む「感謝の質向上」。取材相手が本当に言いたいこと、伝えるべきことにフォーカスできているかどうかを判断する指標として、取材相手からの感謝を「取り上げてくれた」から「思いを形にしてくれた」というレベルに変えるものだが、なかなか一朝一夕にはいかない。「いいモノはいい!」の視点からは反省や気付きを得ることもある。そこで、間もなく入社丸2年を迎える若手・古川竜聖記者の試行錯誤の日々を紹介する。

このサイトで前々回紹介した、行き場のない吉野産ヒノキの端材で地場建築会社が茶道具用の箱を企画・発売したという記事を担当したのが古川記者。当初は商品を紹介することにとらわれていたのだが、編集部内での議論・指導の末、伝えるポイントを「伝統建築を手掛ける事業者による、木材に携わる人への恩返し」と明確化したことで、取材相手からの「感謝の質」を高めることができた事例だった。

記事化をきっかけに、「茶箱」は地元百貨店での店頭販売、セミナー講師依頼へとつながり、昨年秋にはたまたま帰省中に来店したパリ在住の女性の目に留まり、パリに和風インテリアショップを開店した空間デザイナー・坂田夏水さんを紹介され、1月末からパリでの販売が開始された。奈良⇒岡山⇒パリへと共感の輪が広がり、地方の中小企業が海外に進出するきっかけをVISION岡山が提供することになった。

高橋建築の取り組みに共感しパリで「茶箱」の販売を始めた
空間デザイナー・坂田夏水さん

ここまでは編集部にとって、自分たちの存在意義を再確認できる理想的な展開だったのだが、最後の最後、まさに「画竜点睛を欠く」事態が生まれた。記事中のどこを読んでも「VISION岡山など地元メディアによる報道」がまったく触れられておらず、これについて古川記者に尋ねると、「百貨店での取り扱いは、購入者からの紹介が大きかった」という言葉に固執してしまい、最終的にその部分を割愛したというのだ。

百貨店のバイヤーは「VISION岡山の記事などで商品の存在は知っていた」のは疑いのない事実なのに、「相手の話したこと」にとらわれるあまり、ストーリーの起点に触れない結果を招いた(注:手柄を自慢したいわけではありません)。前回「伝えるべき本質を捉えることの大切さを学んだ」と話していた古川記者だが、結果的に「相手の話したこと」に引っ張られてしまい、重要なポイントを見失ってしまったのだった。

指摘が書き込まれた記事原稿

大森昭伸編集長からは日ごろ、「自分の書いた原稿を客観的に見直す」よう指導されているが、分かったつもりになっても、いざとなるとこれがなかなか難しい。特に事実をストレートに伝える記事以外は、ストーリーとしてのつながりを失っては相手に伝わる文章にはならず、「感謝の質向上」など望むべくもないのは言うまでもない。こうした傾向は古川記者だけでなく、中堅記者にも多かれ少なかれ当てはまること。感謝の質向上への道のりは長いが、特効薬など存在せず、日々の努力あるのみと改めて痛感させられた。

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